怒田集落の屋号うた
言葉は古くから集落の暮らしに関わってきました。
急斜面に切り開かれた、高知県、怒田(ぬた)集落の生活となりわいには、暮らしの知恵が言葉のなかに脈々と受け継がれています。怒田から望む山々の風景は、天候を予測し、四季折々で変化する農作業の準備として役立っています。また、日々の生活でよく耳にする屋号は、風土と密接に関係しており、自然と歴史が人々の暮らしを豊かにしています。しかし、高齢化や人口の減少とともに、怒田の知恵が詰まった言葉が、どこにも記録されずに消え去ろうとしています。
怒田での言葉の記録は、必ずしもはじめから唄づくりを目指していたわけではありませんでした。複数回のフィールドワークを通して、大切に使われてきた言葉が残ったら、そして、みんなが楽しく会話することができたらという想いから唄づくりに取り掛かることにしました。私たちは、怒田で暮らす方々への聞き書きやワークショップを行い、一人ひとりの記憶を頼りに、怒田ならではの言葉を集めました。この楽曲が怒田を鮮やかに彩り、そして風土に根ざした言葉を未来の怒田へ、この豊かな暮らしとともに受け継がれていければ幸いです。
1.屋号うた
作詞:笑う怒田プロジェクト
作曲:にしもとひろこ
唄:下村よう子
楽器・合いの手・コーラス:にしもとひろこ
(楽器:木琴、ピアニカ、リコーダー、三線、ジェンベ、木片)
録音・音調整・ベース:甲田徹
怒田では多数の地名屋号が存在していましたが、現在は存在しない家屋や世帯の屋号が忘れ去られようとしています。私たちは、怒田の一人ひとりの記憶を頼りに、子供のときに遊んだ場所や思い出を紡ぎながら屋号名を集めて唄にしました。この唄には、かつての先祖が開墾して集落を築いた様子を表現した4種類の踊りをつけました。
2.カンジャウネの唄
原案:氏原学(アノヂ)さんの語り
作詞:石山俊、川那辺香乃、にしもとひろこ、三村豊、山口惠子
作曲:にしもとひろこ
唄:石山俊、川那辺香乃、にしもとひろこ、三村豊、山口惠子
トイピアノ:にしもとひろこ
この唄は、氏原学さんへの聞き書きをもとにして作詞しました。かつて、ビニールハウスがあったところには家があり、ラジオから天気予報を聞いたおじさんがその日の天気を旗を立てて知らせていました。その家の屋号「カヂヤ(鍛冶屋)」と地形の「ウネ(畝)」が連なって「カンジャウネ」。地図には存在しない地名は、集落だからこそわかりあえる言葉のひとつです。
3.ナカダの恵み
原案:森榮太郎さん、森和子さん(ナカダ)の語り
作詞 :岡田奈々、神門朋花、高田和完、武澤里穂、西浦有香
作曲:にしもとひろこ
唄・ピアニカ:にしもとひろこ
森榮太郎さん、和子さんへの聞き書き(幼少時代の話しや農作業、戦争、結婚式など)をもとにして、高知大学の学生が詞にして唄にしました。歌詞にある「とおせんぼ」とは、結婚式の際、同じ集落の住民が集落から嫁ぐために出てゆく女性を祝う一方で、道に木を置いて寂しさを表現する習わしの言葉です。現在は見ることがない風習が言葉のなかに含まれています。
4.方言
作詞:上村利子(カキノモトノウエ)
作曲:にしもとひろこ
唄・ギター:にしもとひろこ
怒田では、豊永方言が使われていましたが、この言葉も失われつつあります。この唄は、上村利子さんが書いた詞をもとにして作られました。詞には、山仕事や食、そして子育てをする母としての想いが豊永方言で綴られています。当時の暮らしをありありと思い返せるほどの豊かな表現が散りばめられています。